「庚申塔のはなし」 うさ爺
日本全国、八ヶ岳山麓にも庚申塔(こうしんとう)という石碑を見かけるはずです。形はさまざまですが、青面金剛(しょうめんこんごう)という疫病を司る神を中心に足元に三匹の猿が彫ってあるのが基本形のようです。これは室町時代 人間の体内には“三尸(さんし)”という虫がいて、六十日ごとに巡ってくる十干・十二支の庚申の日には、夜の間に体を抜け出し、虫が寄生している宿主の日ごろの悪さを天帝に報告、天帝はその報告に従って人間の寿命を縮めるというのです。それならば、悪い行いをしなければいつも熟睡できると思うのですが、人々は三尸にチクられないように、皆で集まって徹夜(庚申講)したのです。眠らなければ、三尸は体から抜け出せませんから。ちなみに三匹の猿とは、もちろん「見ざる」「言わざる」「聞かざる」。六十日毎の庚申講を三年・十八回続けた記念に建立したのが庚申塔といいます。娯楽の少ない村里では大手を振って大人たちが徹夜できる、いい口実だったのかもしれまん。 体内の虫は人の気持ちも左右したといいますから、今も残る「ムシの居所が悪い」「ムシが騒ぐ」「ムシが好かない」などの慣用句は、この信仰と関わっているのでしょう。自分が「嫌い」と言わず、ムシが「好かない」のだとは、責任回避ともとれる日本人らしい表現ですね。 人間の体に“虫”がいるというのは、われわれも昔サントニンなどの虫下しを飲まされたように、人糞を肥料にしていたことで、国民の大半がお腹に回虫を飼っていたことと無縁ではないでしょう。敗戦直後は国民の九割、昭和三十年代でも六割が、寄生虫と共生していたのです。寄生虫博士として知られる藤田紘一郎博士は、日本人が体内から寄生虫を駆除した時期と、アトピー・花粉症などのアレルギー疾患が増えてきた時期と重なると言います。要するに「対寄生虫用の抗体が、仕事がなくなって花粉などの物質に過剰反応している」らしいのです。いるのが当り前だった回虫を追い出すことで、日本人の体内の免疫システムが狂ったのだと。もしかしてアレルギーは、体内から追い出された“ムシ”たちの祟りなのかもしれません。 うさ爺さん・・・
1952年生れ、さいたま市在住、 インターネット専門の古書店経営。 趣味は乱読。 |
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